現在、イギリスにて世界的なプロダクトデザイナー ロス・ラブグローブ氏のスタジオに籍を置く柳澤氏。「サステイナブルデザインとは」、また「プロダクトデザインの製作現場におけるmodoの使い方」などについてお話を伺いしました。
現在、ロス・ラブグローブ氏のスタジオにて制作活動に従事する傍ら、個人で活動した「Cyclus」のデザインで、ブリティッシュ・カウンシルとロイド レジスター クオリティ アシュアランス(LRQA)が主催するE-ideaコンペティション 2011(http://jp.e-idea.org/) を受賞。またそれに伴い、インドネシアで開催された国際ワークショップにおいて環太平洋各国の政府関係者、NGOならびにNPO代表に対し、日本を代表し基調講演に登壇。
僕は自分のことをサステイナブルプロダクトデザイナー、プラクショナーと表現しています。
サステイナブルデザイナーは、プロダクト一つをデザインするわけではなく、それがどのように生み出され、ユーザーに使われ、影響を与え、そしてどのように処理されるか、というトータルライフタイムを考えるんです。「プロダクトが生み出され終わりを告げるまでのライフタイムを考えるサステイナブルデザイン」という概念が提唱されてから約20年弱が経ちますが、まだあまり一般的とはいえません。
「消費者たる我々」と「自然」と「経済」がうまくかみ合ったときに、サステイナビリティは成り立つものであり、社会構造の中でこの三つのうちのどれか二つだけが結びついたとしても、何かが欠けているんです。その三つの歯車の真ん中で、バランスよく同期させ、うまく噛み合うデザインを提案し、コンサルティングしていくのがプラクショナーであると思っています。
プロダクトをただデザインするだけではなく、包括的に考えコーディネートしていくという点が、今までのプロダクトデザイナーとの違いですね。
もともと僕は映像畑の人間なんです。東京工学院専門学校でCGを専攻した後、グラフィックデザインやゲームキャラクターのモデリングなどの仕事をしていたのですが、24〜25歳ぐらいのときに転機が訪れまして、タイで一年英語の勉強をした後、渡英し、ロンドン近郊の美大に入学しました。当初は映像科を志望していたのですが、様々な予備コースの中から最終的にはプロダクトデザインを専攻しました。「ものをつくる」ということが、とても面白かったからです。
何が面白かったのかというと、特にヨーロッパではユーザーシナリオというものを、とても大切にするんです。デザインには二つのコンテキストがあるんですね。ひとつは「どういう形状をしているのか」、「どういうマテリアルで構成されているのか」、「どういう機能を持っているのか」というフィジカルコンテキスト、そして「それを持つことでユーザーが他者からどう見られるのか」「それを使うことでユーザーの行動や姿勢がどう変わるのか」というソーシャルコンテキストです。これを考えるのがユーザーシナリオなんですが、ものづくりにおいてデザインを中心にしたフレームワークを考える、というのがとても面白いと感じました。
その後、先ほどもお話したような全てを包括的に考えるサステナブルデザインというものに興味を引かれ、当時サステイナビリティの研究面で進んでいたUniversity for the Creative Arts (UCA)に進みました。今はサステイナビリティの研究も盛んですが、当時はUCAとKingston Universityぐらいしかなかったんです。
卒業してから、UNEP(united nations environment programme)やCSCP(Centre of Sustainable Consumption and Production)等の活動をサポートした後、ロス・ラブグローブ氏のスタジオに入社し、現在に至っています。
そうですね。ひとつにはイギリス政府が移民政策において大きな転換を図ったこともあり、海外在住者にとって居住するのがかなり難しい土地になったということもありますし、海外で働く人間であれば誰もが感じるであろう異邦人的な感覚を持ち続けているというのもあります。
また、デザイナーにとってマテリアルを作る技術、職人さんたちというのは非常に大切な存在なのですが、その立場から見ると、リサーチすればするほど日本のものづくりの技術の高さという点に惹かれる部分があります。
賞をいただいたということもあり、今後は活動の軸足を日本へ移していこうかと考えています。
スタジオではまず、ロスがイメージとなるスケッチデザインを描きます。そのイメージを元にモデルを起こし、3Dプリンターで立体を出力します。そこまでの工程にかかる日数が、大体2〜3日なんです。ですので、とにかく現場ではスピードが求められます。
スケッチからmodoでモデリングした後に、lwoフォーマットでRhinoceros、もしくはobjフォーマットでSolidWorksへと持ち込んでから、面の保全性の高いIGES経由で3Dプリンターで出力という流れを取っています。
もちろん、modoは設計用に特化したソフトというわけではありませんから、RhinocerosやSolidWorksのような正確さに欠ける部分もありますが、有機的な形状を出しやすいですし、なによりスピードを重視しています。
また、僕はデザイナーであると同時にリサーチャーでもありますので、ラップトップマシンを持って移動することも多く、モデリング作業などはラップトップで行っています。他に優れた3DCGアプリケーションもありますが、ラップトップでの作業に支障が無く、また元々LightWave 3Dを使用していたこともありましたので、modoを選択しました。
はい。3Dプリンターでモデルを出力すると同時に、クライアントに対してプレゼン用のイメージを提出しなくてはいけないのですが、modoはレンダリングに関しても品質的に他のソフトにひけをとりませんし、レンダリング速度も速い、またモデリングも含めてワンパッケージにまとめられていますので、スタジオでは他のレンダリング用ソフトも所有しているのですが、僕はmodoを使用しています。
modoに実装されているリトロポジの機能は非常に面白いのですが、一歩進めて、面の再分割方法を選択できるようなリパッチの機能があると大変良いですね。
また、サーフェイスジェネレーターを使用してリプリケートを行う際などに、コリジョン判定が行えると作業の効率化が図れます。プロダクトデザインの現場では、ジオメトリ的に正確に配置していく必要がありますので、自動的に衝突を判定してくれるような機能があると、作業時間の短縮につながります。
探せば、そういう機能を実現しているプラグインもあるのでしょうが、スピードを求められる仕事をしているとプラグインを探している時間もないですし、複数のマシンにまたがって作業していると、どうしてもデフォルトの環境で作業するようになりますので、標準機能として実装されているのが望ましいですね。
ロスに常々言われてきたのが「その疑問を手放すな」ということです。日常生活において「あれ?」と感じる小さな疑問をそのまま持ち続けなさい、いつかその疑問を解決する方法が見つかれば、それをデザインとして消化できる人間が本当の意味でのデザイナーになれるんだよ、という意味です。その上で、僕としては貪欲であることをお勧めします。恥ずかしがることなく、わからないならわからないなりに、とりあえずトライしてみること、そういう姿勢を大切にしてほしいですね。