Mad Atom Gamesの開発チームがどのようにしてiOS用の大ヒットゲーム「Monkey Slam」やレーシングゲーム「CSR Classics」を制作したのか、その経緯と開発舞台裏を覗いてみましょう
もしも関係が深いAAAクラスのゲーム会社が突然閉鎖なんてことになったら、その時いったい何ができるでしょうか?スティーブ・ウィルディング氏を始めとし、Black Rock Studioで働いていたメンバー達の答えは、いたって明快なものでした。スタジオの規模を小さくし、独立することを選んだのです。大規模AAAゲームの開発からモバイルゲーム開発へと転身、現在は新しいチームを編成し、Mad Atom GamesとしてiOS向けゲーム開発に取り組んでいます。代表作である「Monkey Slam」ではその開発のメインツールとして、MODOが大活躍しました。
2011年に起きたBlack Rock Studioの閉鎖は、結果的にウィルディング氏が新たにスタジオを立ち上げ、より面白く新しいものを作るためのきっかけに過ぎなかったようです。Black Rock Studioで良き仕事仲間だったウィルディング氏とベイラー・ナイト氏、そしてジュリアン・アダム氏がMad Atom Gamesを立ち上げたのは、閉鎖の直ぐ後でした。この3名は「Pure」や「Split/Second」といったXbox 360/PS3向けレーシングゲームの代表作を手がけた経歴もあり、新たなスタジオの起ち上げには期待が集まりました。
ウィルディング氏は「モバイル向けゲーム開発での経験を積み、とにかくシンプルで最高に楽しいゲームを作りたかったのです」と当初の目標を語ってくれました。「目標を達成すべく、モバイルゲームの大手パブリッシャーであるChillingo社へコンタクトを取り、今までのような古めかしいモバイルゲームコンテンツに旋風を巻き起こしたいとプロジェクトを投げかけたのです。ゲームのコンセプトはボスザルが仲間のサルを空中に投げつけてオブジェクトを破壊させながらフルーツを集めるといったものでしたが、このアイディアが大当たりでした。」
「Monky Slam」へGoサインが出され、Mad Atom Gamesとして初の独立タイトルの開発がスタートすることになりました。「コンソール向けのゲーム開発とは大きく違う部分がありましたし、外部のパブリッシャーと共に仕事を進めるという経験も含め、非常に多くのことを学ぶことができました。習得も早かったと思いますね。」
「小さなチームで開発を進めるということは、個々が様々なタスクをこなさなければなりません。役割を幅広くカバーし、プロジェクト進行上で発生する様々なニーズに対応することが求められます。ウィルディング氏にとってみれば、スタジオにおける第一弾タイトルでいきなり背景担当から突然ゲーム全体のアート担当になったようなものです。」
*ウィルディング氏は「Pure」や「Split/Second」でライティングを担当されていました。
「私自身、背景アーティストとしての経験はあるのですが、その他のタスクとは無縁でした。そのため「Monkey Slam」ではパーティクルやUI、かわいらしいキャラクタ作りなど、新しく学ばなければならないことが山積みだったのです。」
Black Rock StudioでMODOを使っていた経験が手伝ってか、ソロアーティストとして、また初のiOSデビュー作となる「Monky Slam」をカラフルに仕上げていくのは、それ程難しい役割ではなかったようです。
「UV作業が大好きというわけではありませんが、MODOでのUV作業はとても速くて楽です。それに今では多くのUV用スクリプト、特にゲームアートに特化したものを利用することもできますから、時間の節約にとても有効です。」
「「Monky Slam」の全ての3Dアセット制作とレンダリングに、MODOが使われてました。背景やキャラクター、プロモーション用のパーティクルスプライトアニメーション、さらにはアプリのアイコン制作にまでもです。まずはじめに2Dのコンセプトアートを準備したらチームに提示し、候補を絞って行きます。そこからMODOのスカルプティングツールでモデリングを開始し、モデルのシルエットが角度によってどう見えるのかを検証していく方法を取ることにしました。この方法を採用することで、ゲーム全体がどのような見栄えになるのか、そして早い段階でのデザイン調整が格段に楽になりました。」
「サルのキャラクターはボールのような丸い形の頭、それから小さな体、頭を基点に動き回る感じでデザインしました。ボスザルは少し難しくて幾つもデ ザインを試した結果、最終的にはヤシの葉を頭に乗せ、そこからサルが飛び跳ねるようなデザインへと落ち着きました。」
「MODOの特徴的な機能である作業平面、アクションセンター、フォールオフは、モデリングやUVタスクをスピードアップさせるのに不可欠なツールでした。UV展開作業にはいつも苦労させられていましたが、MODOでは簡単に早く済ませることができましたし、大変役に立つスクリプトやプラグインも多く、特にゲーム制作において時間の削減に大きく貢献していると感じます。」
また、MODOに搭載されているトポロジツールは、特にキャラクターデザイン、それから背景用のオブジェクト制作に大いに役立ったようです。「ゲーム上でのフレームレートを保ちつつファイルサイズを抑えるため、描画されている木々の葉に対してはアルファチャンネル付きのテクスチャを用いることなく、不透明にしています。また、よりリアルな動きを加えるのに、Unity上でウィンドシェーダを用いました。」
「このような動きは、MODOの頂点ウェイトツールでペイントすることで、どの部分に動きを与えるのかを指定することで実現しました。これと同じ方法を用いて水や海 賊船の帆も同様にうまく表現することができたのです。さらに木々の葉に対しては、頂点カラーにアンビエントオクルージョンを焼きこんで、深みを表現しています。」
「また「Monkey Slam」で用いられているAppアイコンもMODOで制作したのですが、ここでもMODOは大活躍してくれました。デザイン検討のため多くのモックアップを作る必要があったのですが、MODOでは様々なカラーバリエーションやポーズを作るのも、とても楽でした。」
「MODOは様々な面において、特にインディーズ制作者向けに適しているツールであると感じています。直感的に動作することはもちろんですが、何よりも今までのツール環境ではあり得ないほど、コストに対するアウトプットが大変優れています。ゲーム内のアセット制作に加え、プロモーション用のコンテンツ、そしてハイエンドアートも一つのパッケージで済んでしまうのです。」
もしもあなたが小さなスタジオで働いているとしたら、ワークフローを効率化し、アセット作成にかかる時間を短縮してくれるパワフルなツールを持つことが非常に大きな意味を持ってきます。ここだけの話、Mayaやその他の3Dツールを用いて開発に携わっていたウィルディング氏の知人も、今では大変なMODOファンになったそうです。
「あらゆる点において、インディ系開発にMODOは最適です。非常に直観的なソフトであるという以外に、これほどまでに価値のあるソフトウェアだとは思ってもいませんでした。ゲーム用アセットを作るためだけでなく、同じソフトウェアを使用してプロモーションやハイエンドアートまで全ての制作物を生み出せるのです。」
「MODOコミュニティにも大変助けられています。才能豊かでフレンドリーなアーティストが多く、中にはフォーラムで無償のビデオチュートリアルを投稿し、初心者が直ぐに始められるよう役立つ内容を提供してくれているアーティストもいます。」
さらにウィルディング氏はこう続けます。「MODOを使う最大の利点は、直感的な操作感覚にあるといえるでしょう。シーンをレンダリングし、マテリアルの調整段階に入った時には、標準で搭載されているプレビューレンダラーに驚かされることになるでしょう。このプレビューレンダラーのお陰で、どれ程の時間を短縮できたか 一言では言い表せないくらいです。とにかく結果が必要な時に、応えてくれるのです。レンダリングに至るまでの設定も、他の3Dアプリケーションに 比べ、確実に少ない工程で済みますね。」
「Monkey Slam」が成功を収めたことを受け、ウィルディング氏とそのチームは「CSR Racing」というタイトルをMacへ移植しました。また、Boss Alien and Natural Motion Gamesというゲーム会社ともタッグを組み、iOS向け「CSR Classic」の開発においても協力することができたそうです。とても楽しみながら仕事を進めることができたとのことで、今後もより一層開発におけるサポー トを提供して行くようです。
ビッグタイトルを制作していた頃を振り返りつつ、ウィルディング氏はインタビューをこう締めくくりました。「当時と今とを比べてみても、やはり現在この小さな開発チームで誰もがゼネラリストとして色々なタスクをこなし、ゲーム開発できるということは、とても素晴らしいものですね。」