今回は中部地区を中心に活動されているダンボールアーティスト岩井 知久氏をお迎えし、MODOを活用した作品制作のワークフローや、氏が代表をされているC3D(シースリーディー)についてお話しをお聞きしました。
CGとの出会いですが、初めて出会った3DCGのソフトがShadeです。Shadeは1年ぐらい使っていたのですが、いろいろ調べてその次にLightWaveを購入しました。バージョンは6.0になったばかりのころですね。
CGは仕事にしたいぐらいの魅力を感じていたのですが、出会ったのが27才ぐらいのときで業界的、年齢的にちょっと微妙でした。あと、やるのであれば一線で働きたいというのがあったのですが、そのころの中部圏にはCGの仕事そのものが少なかったのです。東京が圧倒的に多くて。本当に人生かけられるかと言われるとそこまでではなかった、というのが正直なところです。ただ CG そのものはすごく面白かったので、チャンスがあれば仕事にしようと思いつつ趣味でとどめておこう、というふうに考えました。自分の中で、それに一番近い世界がWEBの世界でしたので仕事にWEBを選んだのです。でも根底にはCGが好きっていうのがありましたね。いまだから言える話ですがWEBのことをやりながらもやっぱりCGをやりたい、CGを続けたいというのがあったと思います。
LightWaveのVersionが7ぐらいのときにMODOが出てきて、そこでMODOに乗り換えました。
LightWaveを始めた頃は、今のようにネットでSNSが活発な時代ではなくて、使い方の質問をするとしたら掲示板のようなところに書き込むのですが答えが返ってくるかどうかわからないような状況でした。
その頃ちょうどMODOが出てきたんです。MODOとの出会いですね。MODOは最初からインターフェイスなどのデザイン(見た目)がすごく良くて、なんて格好いいCGソフトなんだろうと思いました。でも、そのころの MODO はまだモデリングしかできなかったんです。総合系のソフトとして出来上がっていたLightWaveからモデリングだけのMODOに乗り換えるのはどうなのかなとは思ったのですが、自分がそれほどCGに時間をかけられないという状況があったので、モデリングの機能から始めてMODOのバージョンアップに合わせて自分もちょっとずついろんな機能を覚えていけるんじゃないかと思ったんですね。しばらくLightWaveとMODOを並行して使った後、MODOにしぼりました。
使いやすかったですね。LightWaveのここがこうなればいいのに、というところを全部実現したような感じでした。
LightWaveで直感的と言いながら使いにくい部分がきれいに整理されており、プラグインに依存していた機能が最初からちゃんと入っていました。LightWaveを使っていた人には修正版のような感覚だったかもしれません。最初のバージョンは特にそうですけれども、直観的にすんなり入れましたね。これをやりたかったらこのツールだよね、っていうのが考えたとおりの場所にあって、ちょっとしたショートカットを覚えればやりたいことがすぐにできるという素直さがありました。
あと Luxology 時代からのすばらしさなのですが、最初のバージョンのときはマニュアルが充実していました。そして20xのバージョンになってからは完成度が高いチュートリアルのビデオが何本も出てきたのです。当時は英語版のビデオしかなかった時代ですが、チュートリアルの英語程度でしたら全然問題無かったです。そして、そのチュートリアルを見ると、すばらしくきちんといろんな機能を使いながら、かっこいいものを作っていくという内容になっていたんです。チュートリアルを2本、3本見れば、基本的なところは誰でもすぐに習得できる感じでした。MODOのバージョンが上がるたびにいろんなチュートリアルが出てくるので、「これがやりたいけど何処にツールがあるんだろう」と右往左往せず、きちんとビデオを見ればちゃんと解決する。CGソフトってツールがすごく多いので学習に時間がかかるんです。学習コストは見過ごされがちなところなんですけど、そこはちゃんと見ておかないといけないと思うんです。MODOではそれがちゃんと考えられていて、学習ツールでちゃんと使えるようになる。サポートまで考えて教材をちゃんと作り込んでいる。メーカーがソフトウェアの作り込みだけなく、教本や教材を出しているというのは素晴らしいですね。
あと、作品を作るときって人によっていろんなやり方があって正解は無いと思うんです。でも最初は一つの道筋を示して欲しいんです。例えば靴を作るんだったら、一つの手本としてこういう作り方がありますよ、というのが欲しい。そこを基準に自分はココをこうしようという風に考えられます。MODOは教本、チュートリアルでそういう基準を示してくれているので本当にありがたいですね。
これは本当に偶然の産物なんです。ある日とあるサイトで「ダンボールでアイアンマンを作ったよ」っていう海外の人が紹介されている記事を見つけました。2013年の3月か4月ぐらいですね。大抵の人は、「いいね」や「RT」、「シェア」をして「これすごいね」で終わりだと思うんですけど、私はなぜかそのとき作りたいって思ったんです。ダンボールだったら設計図さえあれば自分でも作れるだろうと。それでいろいろ探した結果、その顔の部分だけ設計図が公開されていることが分かって、たまたまそれを作ったのが日本人のかたで。図面のPDFがダウンロードできるようになっていたので、それをダウンロードして、型紙を印刷して、東急ハンズで板のダンボールを買ってきて、型紙を当ててカッターで切って、組み立ててみました。それがすごく面白くて。作るときも面白かったですし、友達に見せたときも大ウケで。それで、その時に「あっ!」と思ったんです。CGって見る人の目が肥えてしまっているので、本当に相当すごいものを見せないことには「ふーん」くらいの薄い反応しか得られないんですね。ちょっとした静止画を作るだけでも本当は結構大変だったりするのに。それがダンボールで作った物を見せると今までにないようなものすごい反響があったんです。これはおもしろいなと思って。その時はダウンロードした設計図を切っただけなので自分の作品という意識はなかったのですが、たまたまネットでその設計図を作った人とやりとりすることになって「どうやって作ったんですか」って聞いたら元のデータはLightWaveで作ってますというお話しだったんです。LightWaveで形を作って、そのあとペパクラデザイナーという展開図を作るソフトで変換をしている、というのを聞いたのです。それで「LightWaveでデザインできるんだったら俺にもできる。MODOでもできるな。」ということが分かって、それからオリジナルの作品を作り始めました。そこから先は作るたびにみんながすごく反応してくれるので、おもしろかったですね。他にそういうことをやっている人もいなかったので。しかも、ずっとやってきたCGの技術を活かせていろいろマッチしましたね。3Dソフトも使える。反響もあっておもしろい。誰も他にやっていなくてブログの記事にもなる。そういったことがいろいろあってダンボールアートにハマっていきました。なのでダンボールアートの活動そのものは始めてからそんなに経っていないのです。
そこが面白さの一つなのですが、3Dの作品を作るときって、いわゆるローポリって言われるものでもそこそこポリゴン数があったり、レンダリングまで考えて質感の設定をしたりして結構時間がかかるじゃないですか。でもダンボールアートの場合はできるだけローポリゴンで作りさえすれば、レンダリングの時の質感を考えなくてもいいんです。モデルのワイヤーのデータさえ出来れば、ペパクラデザイナーにデータを渡して設計図にすればいい。3Dを使うアートの中では、わりと早く作品を作れるというところも魅力の一つだと思います。
MODOは、はじめにモデリングのソフトとして出てきて、その評価って今でもかなり高いじゃないですか。MODOはモデリングが素晴らしいって。ですので、そこはペーパークラフト、ダンボールアートの設計図を作るときも生かされています。素早く直感的な操作で形が作れるというのはMODOの利点だと思います。
モデリングをするときには面の大きさをあまり細かくしたくないので四角ポリゴンを多用するんですけど、3Dソフトだと平らではない四角ポリゴンが作成出来るじゃないですか。でも実際にそれを設計図にしてしまうと組み立てるときに破綻してしまい、ダンボールをひねらないといけない。多少ひねるのは仕方がないのですが、できるだけそういうことにならないように配慮して作らないといけないのです。そういう時にMODOですごくいいなと思うのは、選択したポリゴンに作業平面を合わせる機能です。作業平面の位置をポリゴンに合わせれば、平面上に無い頂点を簡単に平面に合わせることができます。斜めのところに何か部品を取り付けたいような場合にも、斜めの部分に作業平面を合わせてモデリングができます。あとスライドの機能でエッジをスライドさせるといった、ちょっと治したい、わがままに治したいということができるので、その辺はほんとに気が利いている感じがします。ソフトの方でいろんな破綻を治せるというのは強いと思います。
あと現物ができる前、クライアントに大体こういう形になりますよというプロトタイプをお見せするときに簡単にレンダリングして渡せるというのもありがたいですね。レンダリングの品質がすごくいいでのクライアントに見せる時の見栄えがいい。簡単に色つけただけででも、CGソフトをあまり知らない人に見せると「すごい造り込みですね。」って言われたりします。
基本的にテクスチャーはあまり作らないのですが、人の頭の形をしたペーパーヘッドの作品を作るときにテクスチャーを描きました。そのとき作ったペーパーヘッドは、実在する本人の顔にする必要があり、後で手描きというわけにはいかなかったので、3DのモデルをUV展開してPhotoshopでテクスチャーを作って、厚紙に印刷しました。
ディズニーのプレーンズを作ったときは、ボディなど大きな部分はラッカースプレーで塗装し、細かい部分はシールを貼りましたね。目の部分やエンブレムはベクター系のソフトで形を作ったり、Photoshopでレタッチをして、シール用紙に印刷してダンボールに貼りました。その辺はもう普通のCGと変わらないですね。
作る作品によって変わってくるのですが、アナログが6に対してデジタルが4ぐらいの比率ぐらいですね。デジタルがちょっと少なめかと思います。
デジタルな部分の工程ですが、まずいろいろ資料を集めたりスケッチをしたりして、MODOでモデリングをします。モデルが固まったら、ペパクラデザイナーで展開図にします。展開図にしたときに破綻している部分があったらMODOでモデルを修正します。そんなに何回もはないんですけどMODOとペパクラデザイナーを行き来して完全にモデルが固まったら、ペパクラデザイナーで作った展開図をEPSデータで書き出します。最後に CorelDRAW や Affinity Designer でEPSデータを編集します。EPSデータの編集ではレーザーカッターでの出力を考慮して線の太さや色を変えたりします。それとペパクラデザイナーで書き出したEPSのデータは線が二重になっていたりしてそのままではレーザーカッターへの出力に使えないので、そういったところも修正します。そのあと修正したEPSデータを工房に持って行き、レーザーカッターでダンボールをカットします。レーザーカッターへの出力は普通のプリンターと同じような感じです。CorelDRAW で印刷のメニューを選ぶと使えるプリンターの中にレーザーカッターが出てくるんです。そこでレーザーカッターを選ぶと普通のプリンターのときのように用紙の大きさなどが設定できます。レーザーカッター専用の設定は大して多くなく、実行するとレーザーカッターがダンボールを指定通りに切ってくれます。
基本全部楽しいのですが、作った物の良否を決めてしまうという部分ではMODOのモデリングのところですね。そこの出来が悪いと後工程でそのまま形になってしまうので一番重要です。最終的な出来上がりを考えてモデリングをするには、実際に組み立てる経験が必要ですね。
C3D(シースリーディー)は、「Chubu 3D(中部3D)」の略で、主に中部圏在住の3DCGに興味のある人達の集まりです。八代さんというMODOを使っているイラストレーターの人とお会いして、ソフトの使い方などを話したりしていたのがきっかけです。自分だけだとなかなか習得がままならないようなことも人に教えてもらったら簡単に解決したりするようなことが結構あったので、だったら似たようなソフトを使っている人と直接会って話がしたい、中部圏でそういった集まりを作ろうと思ったんです。最初は二、三人の方とたまに会ってお話をするくらいの集まりでしたが、だんだん仲間が増えていきました。
C3Dを通して出会われた方が仕事で協業されたりいう話もありますので、そういう場として使われるのもいいなと思っています。C3Dは、あくまで趣味のものとして、面白いものとして続けていこうよ、というのが軸にはあるんですけど私自身クリエイティブな方に軸に置くようになったので、もう少し活動の範囲を広げてセミナーみたいなことをやってみてもいいのかなとか思っています。以前Unityの勉強会を東京でやっていらっしゃる方から名古屋でのUnity勉強会の開催についてご相談いただいたことがあり、ゲスト講師としてC3Dにお呼びしたこともあります。C3Dの外から頼って来てくださるのも嬉しいですね。
C3Dを始めた当時、世間での3Dの位置付けはプロが仕事で使うものであったり、一部の人が趣味で使うものという感じでしたが、最近では3Dプリンターやプロジェクションマッピングのおかげで一般にも認知されてきたように思います。プロジェクションマッピングについてはまだ海外でしか事例がなかったころにC3Dのメンバーと「なんだ、これは!」という話をしていたのですが最近ではあたりまえのものになりましたね。他にもWEBやARで使うローポリゴンのモデルを作るために3Dが使われたりして3D自体の応用範囲が広がってきているので、初心者の人向けにセミナーみたいなものをやってもいいかなと思っています。
ダンボールアートとは直接関係ないのですけど、CGと実写の合成や煙、爆発などダイナミクスの表現に元々興味があって、ダイナミクスの表現が実写と簡単に合成出来たらと思っています。 そういった機能が標準的に使うことができたり、プラグインやキットのようなもので連携が良くなるとうれしいですね。 いまちょっと考えているのは面がはっきりした簡単なモデルを作ってそこにカメラマッチングで実写合成し、ダンボールから物がでてくるようなものをやってみたいなと思っています。
そういえば以前機会があってNUKEのトレーニングに参加したことがあるんですけど、完全にプロ向けのツールで敷居高くて難しかったです。 いまどこまでNUKEとMODOが連携しているのかよくわからないのですが、うまく連携するとすごくやりやすいのかもしれないですね。
今のCG業界にはソフトウェアを選択出来ない分野があると思うんです。たとえばゲーム業界、アニメーション業界だとMaya、Maxを必ず使うので、まずはそれを覚えないといけない。でも私が知っているCGアニメーションの会社の方の話なのですが、核の部分はパイプラインが出来てしまっていてなかなか動かせないけれど、モデリングのところはパイプラインから独立できるのでMODOを導入している、ということをおっしゃっていました。比較的小規模なところや独立してやっている人で、ソフトの元データでのやり取りが発生しないのであればMODOがお勧めですね。先ほど申し上げたようにCGソフトを習得しようと考えたとき、習得するための時間、学習コストを見なければいけないのですが、MODOには最短距離でソフトの使い方を覚えるための教材がそろっているんです。その部分はソフトを選ぶうえで一番重要だと思うんです。
あとMODOから少し離れるかもしれないですけど、ある程度の英語力があるといいと思います。私は最初のころはMODOの英語の教材で使い方を学習しましたし、あと最新の情報を得ようと思うとやはり英語は必要だと思うんです。最低限チュートリアルの英語ぐらいが分かる程度の英語力は欲しいですね。そこは頑張って勉強するといいと思います。