今回は、2013年11月23日(土)から公開されている「ベヨネッタ ブラッディフェイト」のCG監督を務められた菱川 パトリシア氏に、アニメーション制作の現場でどのようにmodoを活用したのかなどについて、お話を伺いました。
アニメーションの勉強をしに母国(ペルー)を飛び出し、日本へと留学した後、映像制作プロダクションIKIF+へと就職。現在はフリーランスとして、様々な映像作品の制作に携わりつつ、大学でも教鞭をとる。
ちょうど今年(2013年)の11月頭ぐらいまで劇場版アニメ「ベヨネッタ ブラッディフェイト」の作品にCG監督として携わっていました。基本的に、私はフリーランスとして単発のお仕事を受けたりしていますが、ほぼIKIF+さんの準レギュラーみたいな立場としても働いております。その他にも、大学で先生をやってたりします。
東京造形大学で週に一回、「デジタルアニメーション基礎演習」というアニメーション専攻の一年生向けの授業を担当して、アニメーション作品を制作する際にに必要な基礎的なデジタル技術を教えています。この授業はもう一つ別の「アニメーション原理」という授業と連動しています。「アニメーション原理」は手書きで作画したり、動画を書いたりという授業なのですが、この授業で作った素材を「デジタルアニメーション基礎演習」の授業でパソコンに取り入れて彩色したり、合成したり、「アニメーション原理」でアナログでやった事(例えば、人の歩きの作が)を、「デジタルアニメーション基礎演習」の方でデジタルのツールでやってみたり(例えば、Photoshopでパーツ分けした棒人間にAfterEffectsでアニメーションをつける)しています。
1年通してこなした課題を全部まとめたDVDを作ります。最初はスキルを磨いていくための単発作品から始め、最後には短めの個人作品みたいなものを作る、というところまでです。2年生になると、より本格的な作品作りに入りますので、そのために最低限知っておくべき知識、ベースを教えているという感じですね。
いいえ、はじめは2004年あたりに東京工芸大学の学科助手を務めました。当時は授業を担当しているわけではなく、いろんな先生方の助手だったり、学科運営といった裏方のお仕事をしていました。その後、2010年からアミューズメントメディア総合学院で教え始め、2011年からは造形大でも講師として授業を担当するようになりました。
実は今教えている学校とすごく深い関わりがありまして、最初に私が日本に留学したのが造形大だったんです。アニメーションの総合的な勉強をしに来日し、夏休みの期間だけIKIF+さんでお手伝いさせてもらうことになって、3Dって面白いんだなっていうことに気が付きました。それまでは3DCGなんてできるわけがない、というか、そういう可能性すら知らなかったんです。母国(ペルー)の方では、当時はあまりアニメーションが盛んではなく、プロダクションもほぼ皆無でしたし、アニメーションの教育を受けられるところもありませんでした。留学してみて初めて、アニメーションという世界はとても広く、いろんなタイプのアニメーションがあるんだということを知り、本当に初心者といった状態からスタートしました。その1年間の留学期間を終え、そのままIKIF+さんに就職しました。
そういうわけではなかったです。アニメーションをどうやって作るのかを全く知りませんでしたから、それを勉強するために来日したわけなんですが、いずれは母国へ帰って勉強した経験を生かせれば面白いかなと思っていたんです。でも1年留学してみて、私は何も知らないんだということが分かったんですね。実際に作品を作らないと、母国へ何を持って帰るの?というふうに感じていた時に、ちょうど運よくIKIF+の社長の木船さんから「うちに来ていいよ」と言っていただけたので、そのまま就職することになりました。いろんなタイミングが良かったということ、また木船さんみたいに懐の深いワールドワイドな方と出会えたこともあり、IKIF+でお世話になることになりました。
はい。母国の大学ではグラフィックデザインを勉強していて、その当時、少しだけ3Dをかじったことはあったんですが、本格的に触り始めたのは就職してからですね。当時は3DCGの発展性というか、使い道が良くわからなかったんですが、日本に来ていろんなアニメーションの現場を見るなど貴重な体験をして、こういう仕事も楽しそうだな、と思ったのがきっかけでした。
働き始めてすぐに、IKIF+のスタッフとして参加したのが「スチームボーイ」のプロジェクトです。既にIKIF+のチームが出向でスタジオ内に常駐して作業されていたので、その先輩たちのお手伝いをしながらいろいろと教えてもらいました。「スチームボーイ」の時は、原画撮影からモデリング、アニメーション、テクスチャ、コンポジットまでやるというスタイルでした。当時はそれが当たり前だと思っていたんですけど、次にお手伝いした「イノセンス」の現場で、普通は撮影は撮影、CGはCGという風に分かれているものだということを後から知りました。
いいえ。「スチームボーイ」の時は同時並行で「戦闘妖精雪風」をやっていましたし(当時は内緒でやっていたんですが)、「イノセンス」の時には「ドラえもん」劇場版のオープニングも作業していて、2〜3作品やるのは当たり前だと思っていました。これも後から、必ずしも当たり前ではないということを知ったんですが。
昨年末にお話をいただいて、当初は私が一人でも受けられる作業量でしたのでお引き受けして、自宅で作業していました。「ベヨネッタ」は元がゲームですので、アニメ化する際に作り直さなきゃいけない部分があったんですね。具体的には、ベヨネッタが銃を持って敵と戦うのですが、その銃のモデリングやテクスチャ設定といった辺りから作業していたんですが、そのうち銃だけでなく、ベヨネッタと敵対する中ボスクラスの天使も3Dでやりたいといったような話になり、依頼内容が膨らんできて相当な作業量が見えてきたので、IKIF+さんとも相談して今年の4月からチームとして作業させていただくことになりました。
CG監督は別の会社さんが担当されるはずだったんですが、事情によってできなくなり、CGのディレクションも全部あわせてお願いされることになりました。今回の「ベヨネッタ」を手がけたゴンゾさんが以前に制作された特典映像のお仕事でご一緒させていただいたご縁もありまして、その時の作品ではCGは少なかったんですが評価していただけたようで、今回はCG監督を任せられました(プロデューサーさんの上手い口車に乗ってしまっただけかも知れませんが)。
一番コアな部分を作業したのは私を含めて大体4名です。関わった人数は、追い込みの時期に手伝ってくれたIKIF+のスタッフと、部分的に外注を頼んだフリーの方と、アルバイトを含めると、大体15人ぐらいでしょうか。
「ベヨネッタ」作品全体は1273カットあるんですが、そのうち何らかの形でCGが関わったカットが151カットあります。その中の37カットは作画さん用のガイドとなるカットですので、レンダリングまでフルでCGが関わっているのは114カットですね。
全然違いました。今まではチームの中で大きな部分を担当することもありましたけど、その時には自分の担当さえ納期までにクリアすればよかったんですが、監督になると誰に何をお願いするのか、それぞれの作業者の能力と作業スピードとかを戦略的に考えなきゃいけないんですよね。作業の進行状況を見て、確認して、指示を出すという立場になるので。
また小さなチームですので、各作業者が抱えている作業量も多めなんですが、無理しすぎないように効率よく働いてもらうにはどうしたらいいのかとか考えました。作業者にベストを尽くしてほしいというのは、どこのスタジオでも考えられることだと思うんですけど、私は可能な限り、作業者を大事にしていきたいと考えているし、会社にいる時間=作業者の力量ではなく、スキルが高ければ早く作業も終わると思っています。家に帰ってお布団の中でゆっくり休んでリフレッシュしてきてもらった方が、圧倒的に作業効率がいいです。それでも無理をかけさせたところはあったと思うんですが。
プライベートなことですが、子育てしながらでしたので、保育園のお迎えとか、子供が体調崩して病院に行くとか、いろんな方に迷惑をかけながらやってましたね。今年の春にチームを組んで作業に入ったと同時に、子供も保育園に入ったので、ある程度の時間は確保できるようになったとはいえ、体力的にはしんどいところもありました。今回の作品は劇場版だったので長めのスパンで作業できましたが、テレビシリーズだったら難しかったかもしれないです。そういった面との兼ね合いというか、バランスを取るのが、今回大きな課題でもありました。
モデリングはmodoとLightWave、UV展開はmodo、リギング、アニメーションからレンダリングまではLightWaveで行っています。
スタッフによってなんですが、私の場合、モデリングとUV展開はやっぱりmodoですね。modoじゃないと前には進めなくて無理です。UV展開の後、テクスチャを描いていくんですが、3Dペイントでガイドになるようなものをラフに描いた後で、Photoshop上でテクスチャを描いていきます。
そうです。UV展開を広げた状態で見ても、そのつながりというのは確認しづらいですよね。特に、3Dのことはあまり詳しくないスタッフにテクスチャをお願いするときなどは、参考図としてこういう感じで描いてくれという指示を、ぱぱっと描いちゃうんです。
例えば、顔のテクスチャだと、展開した時に顔のUVの輪郭がどこにつながっているかとか、凹凸具合だったりというのはわかりにくいですし、ここら辺は鼻の下だから少し暗めにとか、そういったことが3Dペイントですぐに描けるのが大きいですね。
実は列車のカットを少し、試してみていたんです。パスコンストレイント機能が使えるから。ただ、レンダリングをLightWaveのほうで行っていたので、アニメーションをベイクした状態でFBXで出力して、LightWaveへと持っていこうとしたんですが、カメラの設定があまりうまく渡らなくて、今回は断念しました。
シェーダツリーのビューの状態がちょっと使いづらいですね。マテリアル数が少なければ問題ないんですが、もっと複雑なキャラクターを扱うシーンの場合、マテリアル数が膨大になるので、ノードみたいにマテリアル間の関連がすぐにわかるようなインターフェイスが望ましいです。
視覚的に理解したい派なので、今のシェーダツリーだと少し扱いにくいかな。
それにスケマティックビューが欲しいです。
やはり視覚的にものを選択したり操作したいので、アイテムリストがスケマティックビューに切り替えれると嬉しいですね。
あと、きっちり分業しているわけではないので、セットアップとアニメーションとレンダリングでタブを分けなくていいとか、モデルのタブでもタイムラインが欲しいとかでしょうか。ただ、そこら辺は自分の作業のやり方を整理していけばカスタマイズしていけばいけるんじゃないかと思っているので、そんなに重要ってわけじゃないです。
私が学生さんによく言うのは、「一日で全部を覚えようとしないでいい」ということですね。
ソフトって機能がたくさんあるし、使い始めは混乱してしまうんだけど、全部いっぺんに覚えられないことにフラストレーションが溜まり、何かが作れる前に挫折してしまうという事がありうるからです。CGのソフトは絵を作るためのツールなので、そのツールに慣れるまでは何回も繰り返し使わないと身につかないものです。筆で上手く字が書けるようになるのも、何回も繰り返し練習が必要ですよね?それと同じです。とにかく、面倒くさがらないで欲しいです。一度やっただけで満足しないで、何度も繰り返して覚えていって欲しいですね。
あと、一回設定したキーフレームを消す勇気を持つこと!3Dだと簡単にキーフレームを付けられる、ポーズを付けられるんですが、いったんこんな感じだろうなってポーズを付けても、だんだん作業が混乱してくると、余計なキーフレームがあるために、アニメーションがきれいにつながらないということがよくあるんです。一回設定したものを壊したくないという気持ちはわかるんだけど、いったん全部捨ててやり直せばもっとうまくいくことがたくさんあるので、ゼロから繰り返してやってみるといいと思います。
それと、楽しみは自分で見つけるべきことだと思っています。3Dを学んでいる学生さんだったら課題が、または働き始めた新人さんだったら最初に与えられたタスクが面白いか面白くないかというのは本人次第ですので、自分で面白くなるようにするといいんじゃないかな?
最後にやっぱり体調管理!これはとっても大事です。