今回は大分県立芸術文化短期大学で MODO を使用してデザインの講義をなされている鈴木慎一教授に色々なお話をおうかがいしました。
はい、それでは学校の紹介と私が担当しているコンピュータグラフィックスコースについて説明させていただきます。
大分県立芸術文化短期大学は全国でも数少ない芸術系公立短大となっています。美術科は短大の2年間ですが、その後にプラス2年間学習することのできる「専攻科」というものがあり、専攻科に進むと4年制大学と同等の学位「学士」を取得できます。
私は美術科のデザイン専攻の中にあるメディアデザインのコンピュータグラフィックスコース(※以降「CGコース」)を担当しています。「CGコース」はゲームクリエイター、CGモデラー、フィギュア作家といった CG に関連したクリエイターを育成するための専門のコースとなっています。
「CGコース」の授業についてですが、1年生の前期(4月から7月)はデザインの基礎を学習する期間となっており、「CGコース」ではPhotoshopや MODOの基本的な操作のほかにCGを作成するうえで必要になる知識やライティング・カメラワークなどの基礎的な授業を集中して行います。そして、1年生の後期から専門性の高い授業に進むようになっており、「CGコース」の学生はここから前期の学修成果を踏まえたうえで MODO を使用した高度な課題にチャレンジしていきます。
1年生前期の「デザイン基礎」は 2コマ( 90分 x2 ) の講義が週4回あります。そして「CGコース」の学生は後期に「デザイン I」を受講し、2年生前期の「デザイン II」を経て、後期の「卒業制作」につながります。
専門性の高い「デザイン I」「デザイン II」「卒業制作」の講義は 2コマ( 90分 x2 ) の講義が週2回になります。
そうですね。特に2年生の後半になると卒業制作が入ってくるので遊ぶ暇は無いかもしれませんね。
専攻科の方も2年生の後期は修了制作の期間になります。後期は10月から始まるのですが、10月になってから「さあ、やりましょう」といってもなかなかエンジンがかからないので、みんな夏休みに入ったぐらいから構想を練ったりラフの制作にとりかかっています。
学生には大体1ヶ月で1作品を提出してもらっています。以前は、2、3週間で1作品を提出するというかなりハードなスケジュールだったのですが、時間とクオリティ、そして学生自身のペースを考えて今の1ヶ月につき1作品というペースに落ち着きました。
しかし、1ヶ月に1作品だと1セメスター(半期)で3作品しかできませんから年間6作品程度しか作れません。特に1年生の場合基礎を学ばないといけないので、本格的な作品の制作はどうしても2年生からになります。そうすると2年生の間に制作する全ての作品をポートフォリオに掲載出来るくらいの水準へ持っていかないといけないので、そう考えると1ヶ月に1作品っていうのは少ないんです。ですから夏休みや春休みを有効に使うことが非常に大事になってきます。その期間に制作を途切れさせないようにモチベーションを維持させることが必要になってきます。遊びたい盛りですから。そこで学生には無理に課題を与えて作品を創らせるのではなく自分自身の今までの作品を振り返ってどこに欠点があるのかを確認してそれを克服するような作品を創ってもらうように指導しています。あくまでお願いなんですが(笑)。
ゲーム会社の作品審査を通過するようなポートフォリオには自分の世界観を反映した質の高い作品を最低でも5、6作品は必要になります。そのような作品は一朝一夕にはできませんから学生のモチベーションを落とさないようにおだてて、なだめて(笑)ポートフォリオに掲載できる高いクオリティの作品を一つでも多く創れるようになれたらと考えています。
あと月初めに短大生、専攻科生の全員が集まって自分の作品をプレゼンテーションする合同の合評会を行っています。他の学生がどれくらいの出来であるのか。そして、自分の作品が今どれぐらいの立ち位置にあるのかというのを把握し、切磋琢磨してもらうのが主な目的です。
自分で作って作品を提出するだけでは、どうしても客観的に見られなくなってしまいますのでこの合評会は重視しています。皆、仲間であり、そしてライバルですね。合評会には短大生だけではなく専攻科生も出席して、どのような心象風景を切り取っているのかキャラクターの設定はどうなのかといった細かい部分に対して学生同士での的確な指摘が行われます。
今はCGを習得する方法として学校に通わなくても YouTube の動画などを見て独学で学習するようなやり方もありますが、一人だとモチベーションの維持やスキルアップに限界があると思うんです。しかし、合評会を行うことにより自分が今どれぐらいの実力があるのか、どういったことに気をつけないといけないのかということを再認識することができますし、うまくいかないのは私だけじゃないんだといった孤独感も共有できます。そういった連帯感を持ちながら切磋琢磨できるというのは大きなメリットとしてとても重視しています。
本学ではAdobeの教育機関向けのCreative Cloudに加入しており学生は最新のAdobe製品を無料で使用できますのでPhotoshopをはじめとして様々なソフトを使用しています。特に専攻科まで行くと Substance 3D Painter を使用してテクスチャ等を作成する学生もいます。それと、3Dではなく2Dでグラフィック作品を創りたい学生向けにClip Studioも導入しています。あと専攻科以降の希望する学生には ZBrush を教えています。
私が着任したのが18年くらい前なのですが、その当時、本学では LightWave 3D を使っていました。私はその当時3DS STUDIO MAXを使用していましたのでLightWave 3Dに初めて触れて3DS STUDIO MAXとは全く違う製品コンセプトに驚きました。感性を揺り動かすような操作体系とでもいいましょうか。ですが使いにくい部分もありましたのでLightWave 3D的なソフトでかつMacで稼働するソフトを探したところLightWave 3Dとは兄弟関係にあるMODOにたどり着きました。
MODO はリリースされてすぐにチェックしておりLightWave 3Dの良さはそのままで使いにくかった部分がなくなって非常に先進的なソフトだと感じました。LightWave 3D譲りのサブディビジョンサーフェスはやはり魅力的でした。すぐには導入できなかったのですが、数年後の機材やソフトウェアのリプレイスの時に MODO を導入しました。
「CGコース」の短大生、専攻科生を合わせて今24名の学生がおり、皆 MODO を使用しています。
学生は全くこの業界を知らずに入学して初めてMODOに触ることになります。やはり初めてのDCCツールですから皆戸惑いますね。やはり3Dを2Dのモニターで操作するのですから無理はありません。学生は操作を一通り習得するまで何回泣いたか分からなかったとよく聞きます。3DCGってもっと簡単だというイメージがあるようですね。しかし、その一番のハードルを乗り越えるとそれまで悩んでいたことが嘘のようにニコニコしながら作品の制作に没頭していきます。
難しい技術を習得するときの成長曲線はある日突然、急峻に上昇します。悩んでいる生徒には「続けていればある日目から鱗が落ちるように理解できる時が来るからそれまでは頑張りなさい」と言っています。
今は授業の時間になったら全員教室に集まって制作に取り組んで下さいという指導はしなくなりました。今は多くの学生がDCCソフトが動くレベルのPCを所有しています。ソフトのライセンスを持っていれば自宅でもできますし、出席も今はCloudeを利用して取れますから、「自宅でできる環境のある人は自宅でやってもいいし、学校でやってもいいけれども、とにかくきちんとした作品を出しなさい」と言ってクオリティのみを評価しています。
そして前述したように1ヶ月に1回開かれる合評会で状況を確認し、必要であればそれぞれの学生に対して個別の指導をしています。
まず良い点ですが、モデリングのし易さ。これにつきますね。モデリングしやすいということは指導も非常にやりやすいということにつながります。サブディビジョンサーフェスのON・OFFが Tab キーを押すだけという伝統を踏襲しているところも良いですね。
あとインターフェイスが統一されているのも良いです。これは指導していて混乱が少ないのでありがたいですね。それから法線マップの作成などが他のソフトを使用しなくても、比較的楽に MODO の中で完結できるのも良いです。ベイクもやりやすいし、指導しやすいですね。
悪い点ですが、落ちやすいところでしょうか。アクションセンターの移動など他のソフトでは難しい操作もた易くできるなどソフトに対して相当負荷が高いのかと思います。学生からは、ファーを使用すると極端に挙動が不審になったり、何回も落ちたりするのは困ると言っていました。
あと、大規模なシーンになると、格段にレスポンスが落ちるのがちょっと残念なところです。プロジェクトを進めていくとなし崩し的に膨大なデータ量になっていくのですが、レスポンスが悪くなるとファイルを分割するなどレスポンス対策を講じないといけなくなって困る場合があります。
それと悪い点ではないのですがこうしてもらいたいなと思うところは、せっかくスカルプトを搭載しているのだからBlenderのスカルプト並みにとは言いませんが使えるコマンドを用意していただけるとモデリングのバリエーションが広がるのではないかと思います。MODO のスカルプトを使ってもっとディティールを詰められるようなると、制作パイプラインにスカルプトを組み込むことができるようになるので、すごくいいなと思います。あと、リアル系の女性を作成するときにファーがもっと表現力が豊かになると良いのですが。言い方が厳しくて申し訳ないですが。
私が MODO を初めて見たのが 20x, 30x くらいのバージョンなのですが、その当時の MODO は 非常に画期的な印象がありました。プレビューレンダリングなどその当時は他のソフトには実装されていなかったように思いますし、プレビューのレスポンスも早くてモデリングが楽しくてしょうがなかったですね。そして興味深いプラグインが立て続けに出されたりして活気がありました。あの当時とても先進的だった記憶があります。ああいう感じにまたなってほしいですね。
素性のいいソフトなので、ファーやスカルプトを充実してもらえればグラフィック作品を作成するソフトとして他のソフトの追従を許さない存在になると思います。
まず感動の引きだしをたくさん作ってください。想像力を膨らませるには本や映画などいろいろなメディアの作品を体験すること。そしてたくさんの感動を体験して感動の引き出しをたくさん作ることが必要です。学生にもよく言うんですがCGソフトは魔法の絨毯で皆さんをどんな世界にも連れて行ってくれるんだけど、なぜか皆さんはその魔法の絨毯でどこにも旅していませんね!と。もっと皆さん自身でしか表現できないハッとするような世界を魅せてもらいたい。そのツールとしてCGソフトは最高の相棒になります。
次にソフトの習得も大事ですが、一にも二にもまずは造形力を高める訓練をしてください。イラストレーションを描くのもよいですし、いろいろ方法はあると思いますが一番のお薦めはデッサンをひたすら練習するのが近道かと思います。
ソフトを自由に使いこなせるようになればゲーム会社に入れると思ったら大間違いです。ソフトはあくまで道具ですからどのようなソフトを使用しても数か月あれば使いこなせるようになります。ソフトを使いこなせるようになってからそのソフトを使用してどのような世界観を自分の作品に込めることができるかが重要になってきます。そしてその時に必要なのが自分の想像を形にすることができる技術が造形力なのではと思います。
デッサンのうまい学生は、デッサンをあまりしてこなかった学生と比べて作品の質においてある時期を境に圧倒的にパフォーマンスが違ってきます。デッサンは地味な作業であり、なかなか上達を実感できない訓練なのですが、造形力を養うには最適でかつ最高の訓練だと思って地道に枚数を重ねてほしいものです。何事も急がば廻れです。