今回は作品の制作に3Dを活用しておいでの、漫画家 北野弘務氏にお話しを伺いました。
漫画家
3Dモデラー
漫画家、3Dモデラーの北野弘務と申します。
2015年から2016年にかけて「煉獄ゲーム」という漫画をeヤンマガ(イー★ヤングマガジン)さんの方で連載させていただきました。
作画 北野弘務
構成 福原蓮士
この作品では、福原蓮士さんが構成をされて、僕のほうで作画を担当しています。
連載の終了後は漫画家さんから依頼を受けて漫画用の3Dモデルを制作しながら、次回作の準備をしています。
一番のきっかけは「ドラえもん」を読んだのが大きいんですが、子供の頃からずっと漫画を描くのが好きで、学校を卒業した後、地元の北海道から東京に出てアシスタントをしながら連載を目指しました。
元々3D自体には興味があったんです。高校生の頃の話になりますが、雑誌に付いていた3Dソフトの体験版を触ったりしていました。その頃すでに漫画は描いていたんですけど、当時はまだ3Dと漫画は直接つながっていませんでした。
その後、地元の北海道から東京に出てきて週刊連載の現場でアシスタントをしていたんですが、ちょうど漫画の制作がアナログからデジタルに移行している時期で、漫画の制作ソフトに「ComicStudio(コミックスタジオ)」が使われていました。「ComicStudio(コミックスタジオ)」は現行製品「CLIP STUDIO PAINT(クリップスタジオペイント)」(※以降CLIP STUDIO)の前のソフトですね。
それでその「ComicStudio」に3Dモデルを読み込んで線画を起こせることを知り、先生を説得して以前使ったことのあった「Shade 13」を職場に導入してもらったんです。
その当時はまだ複雑な3Dモデルを作れなかったので、既存の素材に手を加えたり、並べたりしていたのですが、それでも3Dのデータから漫画の線を出せるのは僕にとって画期的なことでした。「ComicStudio」に読み込んだピアノの3Dモデルから線画ができたときに「これはめちゃめちゃすごい!」と感動したのを覚えています。
まず漫画を描くソフトについてですが、今一番主流なのは「CLIP STUDIO」です。そしてその「CLIP STUDIO」には「CLIP STUDIO ASSETS」というプラットフォームが用意されており、そこからいろんな3Dモデル、素材をダウンロードして手軽に自分の漫画に使うことができるようになっています。
最近では漫画制作に3Dデータを利用するのはかなり一般的なんです。
はい。アシスタント時代の経験から、自分が連載を持った時には3Dを使おうと思って準備していました。3Dを使わずに、アシスタントさんに一から背景をおこしてもらっていたら、予算と締め切りの関係でクオリティか体のどちらかを壊していたと思います。
あと、非常に運が良かったなと思うのは、たまたまゲーム業界で3Dモデルを作られていた脇崎さん(マンガ3Dラボ 脇崎雅也氏)にアシスタントとして来ていただくことができたんです。
打ち合わせが終わり、必要な背景プランを立てた段階で3Dモデルの発注をし、脇崎さんにモデル作って頂いてる間に、僕の方でキャラクター、背景の構図決め、そしてアタリを入れます。そして出来上がった3Dモデルを、アタリに合わせて配置して線画にしていました。
あと、脇崎さんに3Dの基礎的な部分を教えてもらえて非常に助かりました。簡単なものから自分でも作るようにして3Dのスキルをちょっとずつかさ上げしていって、だんだん小道具や風景を作れるようになりました。
そのときに、漫画で使う3Dモデリングの作法のようなものも学びました。モデルのどういうところに線が出ると絵的に良いのかであったり、モデルの取り回しやすさであったり。例えば、背景の部屋のモデルはレイヤーの分割の仕方で絵作りのしやすさが変わってくるんです。
僕は今、漫画家さんの3Dを受注して制作しているのですが、自分の連載時の経験がそのまま役に立っています。
漫画で3Dを使う利点は、大きく分けて2つあると思います。
まず一つは「作画のコストを下げられること」です。
ここで言っている作画のコストとは一枚原稿を描くときにかかる時間、つまり人件費ですね。コストを下げるというと少し消極的な理由に感じるかもしれませんが、当事者の漫画家にとってはすごく重要な問題だと思います。なにせ、原稿1枚あたりにかけられる時間、そしてお金は限られていて、生活がかかっているわけですから。
「煉獄ゲーム」の連載では、アシスタントさんを何人も雇う余裕がなく、限られたコストで出来るだけクオリティの高い画面をつくるため3Dは欠かせませんでした。
もちろん、ものすごく手間のかかる3Dモデルを作った場合、描いたほうが早い!となる状況もありえるわけですが、3Dモデルは何度も使うことが出来ますし、すでにある素材を使うことでモデルの制作時間のコントロールも可能です。
3Dをうまく使うと作画のコストを抑えることが出来るようになるんです。
はい。もう一つは「手では描けないようなクオリティの絵を実現できる」ということです。
一つ目の利点でクオリティの話をしましたが、ここで言うクオリティはちょっと次元が違う話だと思ってください。漫画で3Dを使うと手で絶対描けないようなものが描けるんです。
例えば、漫画の舞台として「何百もの立方体がランダムに色んな角度で浮かんでいる空間」をキッチリ手で描こうとすると、様々な角度の立方体それぞれにパースを取ることになり、その手間は想像を越えたものになると思います。僕が作画者だったらこの部屋のデザインを締め切りまでに間に合う別のものに変えようとするでしょう。
立方体のような単純な造形のものでも、大量に、そして正確に描こうとすると実現が難しくなってしまうのです。でもこういう時に3D使うと、手間なく描画できてしまいます。パースを気にしないのであればフリーハンドでいいかもしれませんが、絵に「正確さ」を求める場合、3Dには大きなアドバンテージがあると思います。
一つ目の利点であるコスト面を理由に3Dの導入自体はだいぶ一般的になっていると思うんですけど、その中から「3Dでしかできない表現」がどんどん増えてくると思います。
モデリングに関しては、僕の場合ほとんどMODOで完結しています。
漫画で使う3Dモデルは背景の建物や複雑な形状の武器といった物が多いのですが、MODOのモデリングでそれらの9割以上をカバーしています。はためく旗や天蓋ベッドから垂(た)れているような布のモデルはマーベラスデザイナーのシミュレーターを使って作っています。皺のディテールは手作業でモデリングするよりもそちらのほうが早くて美しいので。
MODOで作成したモデルは「FBX2015」形式で書き出して「CLIP STUDIO」に読み込んでいます。
以前の「ComicStudio」のころはトラブルが結構あって大変でしたが「CLIP STUDIO」になってからは、体裁が整っている3Dモデルであれば、FBXを「CLIP STUDIO」のキャンバスに読み込んでも、あまり問題が起こらないので助かっています。
事前にピボットを設定していれば、ドアのパーツの開閉を「CLIP STUDIO」のマニピュレーターのハンドルで操作するようなこともできますし、工夫次第で結構いろいろなことができます。
あっ、多角形ポリゴンはFBXで書き出す前に分割しておいてくださいね。
ほぼホワイトモデルなんですが、グレーの材質を設定することは結構あります。
「CLIP STUDIO」で 3Dモデルを線画にするレンダリング(LT変換)でグレーの部分をトーンに残してくれたりするので「グレー1」「グレー2」というような階調をつけておけば、後でトーンを貼る手間を最小限に抑えることができるんです。
自分の連載で手伝っていただいた脇崎さんにおすすめの3Dソフトをお聞きしたところ「MODO一択です。」と言われまして。
それで、MODOの体験版を使ってみたのですが、「あっ、これいい!」と感じるものがありました。LightWaveを使っていたのである程度ベースはあったんですけども僕はMODOの方がマッチしましたね。MODO 801くらいの時です。
MODOを使いはじめて急にいろいろ作れるようになって、そこからハマっちゃったんです。
まず、インターフェイスがとにかく分かりやすいですね。ちょっと言い過ぎと思われるかもしれませんが、マニュアルを読まなくとも、だいたい何がどこにあるか分かってしまうほどツールが素直に配置されています。だからといって機能が少ないわけでは全然なくて、Meshfusionのような派手な機能から「四角塗りつぶし」のような細かい便利機能までカバーされて、この分かりやすさはスゴイと思います。
MODOの他にもいろいろな3Dソフトを使ったのですが、MODOのモデリング機能は知れば知るほど、よく出来ていると思います。今では他のソフトでのモデリングは考えられなくなってしまいました。随所に工夫が見られるのがとてもいいですね。
あとMODO JAPAN グループの公式のチュートリアル動画のコンテンツの質の高さも僕はMODOの魅力だと思います。毎回とっても分かりやすくて、あの動画がなかったら3Dで仕事は出来ていなかったのではないかと思います。有料の動画も見ていいますが、無料であれだけ必要なことを教えてもらえるのはすごく助かったなぁと思います。
これまでは3Dを使ってマンガの背景を制作するだけでしたが、現在、人物も含めてフル3Dのマンガを制作しています。まだお見せできる部分は少ないのですが、公開できるようにがんばります!