今回はキャラクターをはじめとしたさまざまなデザインに3Dを活用しておいでの、キャラクターデザイナー 澤田 圭氏にお話しをおうかがいしました。
キャラクター
デザイナー
そうですね。自分が画面上で納得した形状をそのまま3Dプリンタで出力が出来る時代になったので、特に形状に妥協出来ないこだわりがある方は使えていると満足度の高い仕事が出来ると思います。
例えばこれは香港で販売されたソフビ(ソフトビニール)のフィギュア(右)ですが、この時は私の方で3Dのデザイン画(左)を用意し、それを元にして向こうのアナログ造形師さんが粘土で原型を作ってくれました。(中央)
でも、なかなか粘土に修正って出しにくいんですよね。作り込まれた後だと「ちょっと下げて」とか気軽に言えないので、デザイナー自身が納得いくまでモニタ上で試行錯誤を出来、それが寸分違わず製品になると考えれば覚えない手はないのではないでしょうか。
また一度モデリングをするとデジタルデータはサイズの変更が容易なので、予算や目的に合わせて大きさの違うフィギュアを作ったりとその後の展開にコストがかからないのも魅力ですね。
3DCGは⽴体物を作るとき以外に2Dイラストの作品でも使⽤しています。
⼿で描くと時間がかかる複雑なパーツやディテールは3Dのラフモデルを下絵にしてIllustratorでトレースしたりします。この手法を使うと、例えば室内や⼩物のイラストをバージョン違いで何枚も描いた場合でもパースが揃うので統⼀感が出せます。
あと個展や展⽰会のシミュレーションにも3Dを利用しています。実際のギャラリーをモデリングして、作品だけではなく実寸台の人も配置することで「会場に⼊ってきてパッと⾒えるのがあそこだから、そこにインパクトが強い作品を飾ろう」とか「同時に視界に入る絵はケンカしない色にしよう」という⾵に検討できるので、3Dを使うと事前に⼊場者⽬線を体験できるのがいいですね。VRを使えばより一層体感度も増しますよ。
これは以前個展をやった時に作ったギャラリーの3Dモデル(左)と実際の会場の写真(右)です。この⽬のオブジェは、⼀度3Dで作ったものを元に発泡スチロールで作りました。
これはアイドルのポスターを描いた時の作品です。
このときはライブハウスやスタジオに貼られたときに目を引くように、ポスターの縁(ふち)は3Dソフトでモデリングしたリアルな額縁で装飾し、絵の表⾯には「modo kit for Studio Lighting & Illumination」を使用し、照明の反射のようなエフェクトを重ねてみました。
そうすることで、実際に壁に貼られたポスターをパッと⾒ると「あれ、額に飾ってあるの?」という⾵に錯視的な驚きで注目してもらうことができました。もちろん横から⾒たら一枚の紙なのでペラペラなんですけどね。
これも2Dと3Dを融合させた作品です。
3Dソフトの中で切り抜いた画像を⽴体的に配置し、ペーパーアートのような効果を狙いました。CGだとはさみで切るには難しい形状でもアルファチャンネルで切り抜き、効率よく⽴体的に配置できるのでありがたいですね。
イラスト以外にもちょっとしたアクセントで3Dを使ったこともあります。
これは、クラブの壁の⼩さな凹(へこ)みに作品をディスプレイしたときのものです。実際は奥行10cm程の浅いスペースだったのですが、3Dで作った立体的な壁紙を貼ることでもっと深い空間があるように演出しました。実際に凹凸があるわけではなく印刷した平面ですが、照明が暗い事も相まって擬似的に空間を生み出す事が出来ました。
これは3Dのモデルをカラープリンターで出⼒した作品です。
水は透明の素材を使っており、底の部分に窓を空けているので下からライトアップすると、ナイトプールのような雰囲気になります。3Dプリンターでこういったモデルが⼀発で出⼒できるというのはすごい時代ですね。
一番見せたいものをどうすればもっと良い状態で見てもらえるかということを一番に考えています。またメインにかける時間を十分に確保する為に、3Dでどれだけ時間を節約できるかという風に考える場合もあります。
あと新しい技術が好きですね。
新しい技術が広がりはじめるときには、やろうと思うけどやり⽅がわからない⼈がたくさんいますよね。そういうときに、その技術を使った作品や情報を発信すると自分の作品にも興味をもって⾒てもらえる⼈が増えるので、常にアンテナを張って少しでも早めにそういった情報から作品に結びつけるのは⼤事な気がします。
思いついた瞬間に発信できる時代なので、そういうスピード感というのは⼤事だと思っています。
最近は「Adobe Aero」でARをやりましたが、カメラ越しに見える自分の作品はまた違った魅力がありました。
⼀番初めに買った3DのソフトはZBrushです。そのあとポリゴンモデリングの作業⽤にMODOを買いました。
それぞれのソフトは作りたいモデルによってソフトを使い分けています。
たとえば、この作品ではメインの造形をZBrushで作成し、細かい装飾はMODOで作って張り付けています。
また、MODOで作ったモデルに対して、ZBrush で皺(しわ)をつけていったりもします。
最近はZBrushでもハードサーフェイスのモデリング機能がついてきていますが、硬い形状のモデリングをするときは慣れているMODOを使っています。
MODOを使うのはきれいにモデルを作り上げたいというときです。思い通りの形ができるのがありがたいですね。
例えばMODOの作業平⾯の機能を使って傾斜に沿ってモデリングをしたり、特定の場所を基準にして思い通りの⽅向に編集するようなことはモデリングの根本的なところなのに、出来て当たり前と思っていたことがMODO以外のソフトでは出来ないことを知りとてもストレスを感じました。思い通りの場所に配列出来たり吸着出来たりと、触っていて気持ちがいいソフトです。
逆にZBrushを使う時はそういう細かいことは気にせずに感覚と勢いでモデリングしています。
あとMODOだとポリゴンやアイテムの選択が他のソフトと⽐べるとすごく楽な気がします。他のソフトを触っていると「MODOでは簡単に選択できたのに、このソフトではできない」と思うことが多いです。一枚一枚選択すれば同じ結果は得られますがワンクリックで出来るとその時間を有効活用出来ますからね。
プレビューレンダリングもよく使っています。私の場合はレンダリング画像が最終⽬的で無いことも多いので、常にある程度の形をプレビューレンダリングで確認しながらモデリングできるといのはありがたいです。
多分MODOはすごく標準的というか、独特な動きではなく、クセの無い操作感だと感じています。そういう⾯で⼀番最初に触るポリゴンモデリングソフトとしては、初心者の方にもお勧めできると思いますよ。
あと他のソフトだとプラグイン/アドオンによる追加機能が話題になったりしますが、MODOではそういう話はあまり無いですよね。それは作る人がいないというのではなく、作る必要が無いということだと感じています。つまりデフォルトで有用な機能が入っているということだと思います。
ユーザーが作ったプラグインやアドオンは確かに便利なのですが、バージョンアップに対応しなくなると、使えなくなるということもありしますし、そういった⾯でも公式の安⼼できるものが最初に十分に実装されているというのは心強いですよね。
3Dプリンタを購入し、分割や重心など立体造形の為のモデリング方法をある程度習得出来たので、次はアニメーションやデータの軽さなどを考慮した、ゲームやアバターの為のモデル作りを学びたいと思っています。
また、自分にとって一番楽しいのはキャラクターを作ることなのですが、今後はメインを引き立てる為の装飾品や木、家などの背景にも取り組んでいきたいです。
素材として手持ちのアセットが増えることは今後の自分の武器にもなりますし、オンラインで配布したり販売したりして、自分の知らないところで自分の作品を使ってもらえるのも楽しいでしょうね。各アーティストさんが請け負われたメイン部分を、さらによく見せるお手伝いが出来たら嬉しいです。
あと新しい技術も好きなので、バージョンアップで追加された新機能を使ってどういうものが出来るのかという作例を考えるようなお仕事もしてみたいです。
例えば技術書の作例っていくらすごい機能を使っていても魅力のない作例だと学習意欲がわかないですよね。技術屋とデザイナーは分けられることが多いと思うので、どちらにも精通している両方を兼ね備えたアーティストになりたいです。
インタビューのはじめの方で、制作する前に人形の眼球の大きさが決められていてそこからモデリングをするという話をしましたが、そういった制限があると逆に燃えるんです。それに「なんでも自由に作っていいよ」というより、制限があることによって面白いキャラクターが生まれることもあると思います。
手書きの作業は反復練習、つまりどれだけ描いたかが大事だと思いますが、3Dソフトの作業は知識とひらめきが大事だと思います。そのひらめいた時の気持ち良さを味わう為にこれからも勉強し続けたいと思います。